エトセトラ

ポテコピアス『ショートカット女子 ショートショート』

首元が涼しい。
胸元まであった髪を切った。強くなりたかったからだ。
私は単純な人間で、強くなるためには男のようにならなくてはならないと考えた。そのために、この胸を隠す長さの髪の毛を切ってしまおうと思ったのだ。

ショートカット。

「何だろう?」先程まで着ていた服、身につけたネックレスに違和感を覚えた。

「これじゃない…?」

服を脱ぎ、ネックレスも外した。
どうやら髪の毛を切ったことで、今まで似合っていたものが合わなくなったようだ。

私のアクセサリーは、メガネケースの中に隠してある。可愛いメガネケースを見つけては、買い、その中に指輪やネックレス、それにピアスを隠した、宝箱だ。

「今の私に似合うものは何?」

指輪、ネックレス、ピアス、全てを手に取り、付ける。
ピンクゴールドのネックレス。違う。パールの付いたピアス、違う。ハートをモチーフした指輪、違う。

「これだ」そう思ったのは、シルバーのピアス。
「ポテコピアスだ」そう呟くと、記憶が蘇りあの頃を思い出す。

*               *               *

映画を観ていた。ローテーブルには飲みかけのペットボトルとお菓子。

観ているのは『レインマン』
大量に落ちたつまようじを瞬時に数えるワンシーンに、彼は「ありえねえ」と呟く。

(いち)

パニックになり身体を揺らす弟、それを兄が宥めるワンシーンに、彼は「何やってんの、笑える」と呟く。

(に)

映画を観終わり、半分ほど残っていたポテコを二人で食べる。
「ほら、ちょうどいい」彼はそう言い、ポテコを私の指にはめる。「これは人差し指、これは小指」
私は四分の一ほど欠けたポテコを手に取り「これは指輪にならないね」と言った。「これはここだよ」私の手からポテコを取り、私の耳にはめる。

「ほら、ポテコピアス。ちょうどはまった。この前買ってたピアス、あれ、君に似合わないよ。君にはね、もっと女の子らしい、可愛いものを身に付けてほしいね。シルバーのピアスなんて、男でもできるでしょう?君は女の子なんだから。女の子は、女の子にしか身に付けられないもので、可愛く着飾るべきだよ」

彼はそう言い、そのまま私の耳についたポテコピアスを齧る。(ああ、始まる)いつものように人形になり切ろうとする思考とは反対に、仰け反る身体、彼の身体を押し返す腕。それも虚しく、抵抗できずに私は人形になる。

(さん)

よく知りもしない野球のルールを思い出す。
(三回ダメなら、交代なのよね)

チェンジ!
私の心の中の審判がそう呟いた気がした。首を横に振り「そいつはダメだ」そう言っている気がした。

*              *               *

そう、あの頃買ったシルバーのピアス。通称『ポテコピアス』
鏡を見ながら、付ける。形はポテコと同じ。でも『ポテコ』の響きにはない力強さを感じる。

よくパールの付いたピアスを付けていた。白から銀に変わるだけで、こうも違うのか。
雪で一面覆われた風景を『白銀の世界』と言うが、確かに、雪の白さに可愛らしさを感じつつも、自然の雄大さに力強さを感じる。白銀の世界は、パール付きのピアスと、シルバーのピアスの二つの合わせ技みたいなものなのね。

昔から「あなたは、可愛らしくて、少し間抜けなところがいいのよ」そう言われて育ってきた。皆がそう思うのなら、と多少なりとも『可愛らしい自分』に寄せて生きてきたように思う。

でも、もう私、変わるの。鏡に映る自分に言う。

「私、変わるの。もう可愛らしい自分を演じるのに、疲れた。女は女らしく、可愛いものに囲まれて生きる。それもいい。でも私は違う。私は、私の『好き』に囲まれていたい。好きなものを身に付けたい。このピアスの数の分だけ、私は強くなる。ピアスの重さの分だけ、私の心は軽くなる」

銀色に輝いていた、メガネケースから一つ、また一つと手に取り、耳に付ける。

「格好いい」顎まで届かない、耳の下で途切れる髪の毛から、銀色に光る無数のピアスたちが見える。

私は強くなりたい。
ショートカット。
耳には、バチバチと音を立てそうなシルバーのピアス。

自分の見た目を変えて、強くなりたいなんてまるでごっこ遊びのようだと思う。
幼い頃は、オモチャのステッキを持てば、魔法使いに、うすい色付きのビニールを腰に巻けばお姫さまに、母の口紅をこっそり付けてはアイドルに変身できた。今でも、何者かになりたい気持ちは、変わらず持ち続けているのだ。

私の好きな歌を思い出す。

今はまだ、このごっこ遊びのような、強くなりたい想いも、いつかは本物になるかもしれない。最初はただの真似事。ずっと弱いままかもしれない。それでも、強くなりたい想いを、このシルバーのピアスたちに込めて、私は私を強くしよう、強くなろう。